この記事では、宅地建物取引士(宅建士)試験で合格するためには学校を利用した方がよいのか、独学で勉強した方がよいのかについて解説します。初めて勉強する方は、どちらにしようか迷ってしまいますよね。経験がないと、どちらが良いかの判断がなかなかつきません。ここでは、資格の合格率・難易度・勉強時間などを考慮した上で、どちらがよいのか検証していきます。参考にしてみてください。
宅地建物取引士(宅建士)とは
宅建士とは公正な不動産取引を実現するための専門家です。
不動産取引の際の重要事項説明は宅建士だけに認められています。
また、宅地建物取引業者(宅建業者)には、事務所の従業員5人に1人以上の割合で専任の宅建士を置かなければなりません。
そのこともあって、不動産業界で働く者にとっては必須の資格と言ってもよいです。
宅建士は宅地建物取引業法(宅建業法)に基き定められている国家資格です。
そのため、宅建士になるためには、宅建業法で定める宅地建物取引士試験に合格しなければなりません。
宅建士は、国家資格の中ではかなり知名度・人気の高い資格となっているため、毎年多くの人が受験しています。
宅建士試験は不動産系・法律系資格の登竜門的な位置づけになっているのも人気の理由です。
宅地建物取引士(宅建士)試験の概要
宅建士試験の概要は次のとおりです。
資格の種類 | 国家資格 |
---|---|
ジャンル | 不動産系 |
受験資格 | 日本国内に居住する者であれば、誰でも受験可 |
試験日時 | 例年 10月の第3日曜日 午後1時から午後3時まで |
受験料 | 8,200円 |
受験地 | 全国47都道府県 原則、現在住んでいる試験地(都道府県) |
試験内容 | 出題数は全部で50題(登録講習修了者は45問) ① 土地の形質、地積、地目及び種別並びに建物の形質、構造及び種別に関すること。 ② 土地及び建物についての権利及び権利の変動に関する法令に関すること。 ③ 土地及び建物についての法令上の制限に関すること。 ④ 宅地及び建物についての税に関する法令に関すること。 ⑤ 宅地及び建物の需給に関する法令及び実務に関すること。 ⑥ 宅地及び建物の価格の評定に関すること。 ⑦ 宅地建物取引業法及び同法の関係法令に関すること。 ※出題の根拠となる法令は、試験の実施年度における4月1日現在施行されているものとなります。 <出題の形式> 四肢択一式 |
試験の一部免除 | 国土交通大臣の登録を受けた者(登録講習機関)が行う講習を修了し、その修了試験に合格した日から3年以内に実施される試験を受けようとする者(登録講習修了者)は、上記の➀及び➄については免除されます。 |
合格基準 | 宅地建物取引業に関する実用的な知識を有するかどうかで判定されます。何点を取れば合格というような明確な基準はありません。そのため、毎年合格発表があるまで、合格最低点はわかりません。過去の合格最低点については下を参照! |
合格発表 | 例年 11月下旬 |
問い合わせ先 | 一般財団法人 不動産適正取引推進機構 03-3435-8181 公式ホームページはこちら! |
宅地建物取引士(宅建士)試験の合格率
直近の10年間における宅建士試験の合格率は、次のとおりです。
年 度 | 合 格 率 |
---|---|
2023年度(令和5年度) | 17.2% |
2022年度(令和4年度) | 17.0% |
2021年度(令和3年度12月) | 15.6% |
2021年度(令和3年度10月) | 17.9% |
2020年度(令和2年度12月) | 13.1% |
2020年度(令和2年度10月) | 17.6% |
2019年度(令和元年度) | 17.0% |
2018年度(平成30年度) | 15.6% |
2017年度(平成29年度) | 15.6% |
2016年(平成28年度) | 15.4% |
2015年(平成27年度) | 15.4% |
2014年(平成26年度) | 17.5% |
合格率はおおむね15~17%台です。
合格率の平均は約16.2%、最近はやや高めの17%台となっています。
宅建士試験の場合、合格点があらかじめ決まっていません。
受験生の試験結果から、上位の15~17%ぐらいの者が合格になるように合格点が定められていると考えられます。
宅地建物取引士(宅建士)試験の合格点・合格ライン
毎年宅建士試験終了後から合格発表までの間、多くの受験生がネットで合格ラインについて検索しています。
それは、宅建士試験には合格点が決まっていないためです。
受験生なら、何点以上で合格かということは気になりますね。
直近の10年間における宅建士試験の合格点は、次のとおりです。
年 度 | 合 格 点 |
---|---|
2023年度(令和5年度) | 36点 |
2022年度(令和4年度) | 36点 |
2021年度(令和3年度12月) | 34点 |
2021年度(令和3年度10月) | 34点 |
2020年度(令和2年度12月) | 36点 |
2020年度(令和2年度10月) | 38点 |
2019年度(令和元年度) | 35点 |
2018年度(平成30年度) | 37点 |
2017年度(平成29年度) | 35点 |
2016年(平成28年度) | 35点 |
2015年(平成27年度) | 31点 |
2014年(平成26年度) | 32点 |
直近10年間の合格点は31~38点です。
平均の合格点は34.9点となっています。
年度によってバラつきがあります。
試験の難易度によって合格点が変わります。
試験の難易度が高いと、受験生の点数は低くなるため、当然合格点も低くなってしまいます。
38点(直近10年の合格点の最高点)を取ることを目標に勉強するとよいです。
38点取っておけば不合格になる可能性は極めて低いと思われるためです。
あくまで目標なので、そこまで気にする必要はありません。
宅地建物取引士(宅建士)試験の難易度
宅地建物取引士(宅建士)試験の難易度について、次の3点により解説します。
- 合格率
- 勉強時間
- 資格の特徴
合格率
宅建士試験の合格率はおおむね15~17%台となっています。
合格率だけでみると、国家資格の中では比較的合格しやすい試験と言えます。
難易度が高い国家資格になると、合格率が1ケタの場合が多いです。
合格率がわずか数%しかない超難関資格もあります。
ただし、税理士試験(科目別)のように合格率がそこそこ高くても難易度の高い資格もあります。
宅建士試験は、合格率でみると普通の難易度と考えられます。
難易度の5段階評価なら星3つです。
勉強時間
宅建士試験の勉強時間は、個人差はありますが約300~500時間です。
国家資格の中では真ん中くらいの勉強時間です。
難易度の高い資格になると、1,000時間以上勉強しないといけないものもあります。
主な資格における勉強時間は、次のとおりです。
資 格 | 勉 強 時 間 |
---|---|
宅建士 | 約300~500時間 |
司法書士 | 約3,000時間 |
中小企業診断士 | 約1,000時間 |
土地家屋調査士 | 約1,000時間 |
社会保険労務士 | 約800~1,000時間 |
行政書士 | 約600~800時間 |
マンション管理士 | 約500~600時間 |
管理業務主任者 | 約300~500時間 |
日商簿記2級 | 約250~350時間 |
FP2級 | 約150~300時間 |
日商簿記3級 | 約150時間 |
FP3級 | 約50~100時間 |
勉強時間が長いと、それだけ学習内容が多く、深い理解度が求められます。
そのため、勉強時間が長ければ長いほど難易度は高いと判断することができます。
宅建士試験は、勉強時間でみると普通の難易度と考えられます。
難易度の5段階評価なら星3つです。
資格の特徴
宅建業者は事務所の従業員5人に1人以上の割合で、専任の宅建士を置かなければならないという義務があります。
それなのに、宅建士が超難関資格では資格者が足りず、宅建業者が事務所を維持できなくなってしまいます。
ある程度は合格しやすくしておかないといけません。
そういう意味でも、宅建士試験はそれほど難易度が高いとは言えません。
宅地建物取引士(宅建士)試験は簡単に合格できる?
宅建士試験の難易度は普通であると解説してきました。
では、普通の難易度なので、初学者でも簡単に合格することができるのでしょうか?
実際に勉強してみるとわかりますが、そんなに甘いものではありません。
大学で法律を勉強したり、他資格の勉強してきた人なら別ですが、初学者にとっては学習内容や言葉の言い回しは難しく感じると思います。
暗記することも多く、本当に嫌になってしまいます。
特に、民法は理解しづらく、勉強しても点数が伸びにくく、厄介な存在だと感じるでしょう。
相当やる気がないと、すぐに挫折してしまいます。
今まで比較的合格しやすいと言ってきたのは、他の難関資格と比較した場合です。
宅建士資格だけで考えてみると、凡人なら十分難しい資格試験と言えます。
複数回の受験で合格する人も多いです。
ただ、決して頑張って取れない資格ではありません。
一発合格が不可能な試験でもありません。
きっちりとした教材で、しっかり努力すれば、必ず報われると思います。
逆に、努力できない人は受験そのものをやめておいた方がよいでしょう。
教材費がムダになってしまう可能性が高いです。
宅建士試験は学校の利用・独学のどちらがよい?
学校を利用するのか独学で勉強するのかの判断基準は個人によって異なります。
その人の能力や置かれている状況などが異なるためです。
どちらにするのかは、次の項目により判断すると失敗が少なくなります。
- 予算はいくらか
- 資格の難易度は高いか
- 教材は充実しているか
- 専門的な技術などを要する試験か
- 費用対効果はどうか
予算はいくらか
予算がないと、当然ですが資格学校を利用することはできません。
その場合は、独学しか選択肢はありません。
自身の貯金額や今後の収入などをチェックするとよいでしょう。
受講料を払えるのであれば、学校の利用を検討するのもありです。
ただし、金銭面で少しでも不安を感じたのであれば、冷静になってじっくり考えるとよいです。
無理は禁物です。
資格の難易度は高いか
資格の難易度で学校を利用するのか、独学で勉強するのかを判断します。
宅建士試験は普通の難易度であると言われています。
難易度が普通の資格が学校を利用するかどうかのボーダーラインと考えます。
国家資格なら宅建士や管理業主任者、民間資格なら日商簿記2級やFP2級がまさにボーダーラインです。
難易度がもう少し低い資格試験でも、確実に合格を目指したいのなら学校を利用するのもあります。
もちろん、ボーダーラインは個人によって異なるため、自身のボーダーラインはどこにあるのか考えてみるとよいでしょう。
宅建士であれば、学校を利用してもよいと思います。
独学でも、合格を目指せる難易度です。
一般的な資格試験の難易度だけでなく、自身がその資格試験について難しく感じられるかどうかも考慮して判断するとよいです。
教材は充実しているか
資格学校では、ほとんどの場合オリジナルの教材が使われます。
オリジナルの教材は、これまで培ってきた経験などを活かして作成されているため、市販の教材よりも優れていることが多いです。
では、市販の教材はどうでしょうか?
人気の高い資格は、市販の教材の種類が豊富です。
いろいろな種類があるため、自分に合ったものを選択することできます。
一方のあまり人気のない資格は教材の種類が少なかったり、欲しい教材がなかったりすることがあります。
教材が充実している資格については独学を検討することができます。
しかし、必要な教材が揃わないのであれば、学校を利用した方が無難です。
教材の良し悪しは試験の合格に大きな影響を与えます。
せっかく一生懸命勉強しても、教材のせいで不合格になることも考えられます。
時間を無駄にしたくないなら、学校を利用した方がよいという判断ができます。
宅建士は、国家資格の中でかなり人気の高い資格の1つです。
そのため、テキストや問題集などの種類が豊富です。
気に入った教材が見つかれば、独学を検討してもよいです。
専門的な技術などを要する試験か
専門的な技術などを要する試験かどうかで判断します。
例えば、土地家屋調査士試験の作図はきちんとやり方を学んで採点してもらわないと合格レベルの答案を作成できるようになりません。
独学でマスターするのが難しい試験内容にはなっていないかをチェックするとよいでしょう。
もちろん、独学でマスターできると判断すれば独学でもOKです。
宅建士試験は専門的な技術などを要する試験とはなっていません。
すべて択一問題となっています。
特にこの点を考慮する必要はありません。
費用対効果はどうか
費用対効果を判断する材料はたくさんあります。
特に重要なのは、講義(動画を含む)の有無と質問の有無です。
講義なしできちんと内容を理解できそうか、わからないことがあっても自分で解決できそうか。
実際に学習をはじめないと、これらの判断をするのが難しいです。
それだけに、難易度などからある程度予想するしかありません。
試験に関する最新の情報(法改正など)を入手できるかも重要です。
その資格を取るのに、それだけの受講料を払っても惜しくないと思えるかどうかで判断するとよいでしょう。
宅建士試験には、民法などいろいろな法令に関する問題が出題されます。
法令の学習が初めての方は慣れない用語などが多く、理解するのが大変です。
講師の解説があったり、質問できた方が圧倒的に効率よく学習できます。
法改正などの最新情報を入手できるのもありがたいです。
このような点から学校の利用をおすすめします。
最終的な選び方
学校の利用か独学かは、ここまでで解説してきた項目を総合的に考えて判断するとよいです。
ただし、人によっては判断基準は異なります。
そのため、他にも重要な項目があるかもしれません。
その場合は、その項目を含めて総合的に判断するとよいです。
最終的には、自分の基準でどうするのかを決めるようにしましょう。
宅建士試験は学校を利用して学習することをおすすめします。
難易度と費用対効果を考えると損はしません。
短期で効率よく合格したいのであれば検討する価値はあります。
ただし、市販の教材が充実しているため、自身でしっかりスケジュールを組んで学習する自信があるのなら独学でもよいです。
宅建士試験で学校の利用をおすすめする人・独学をおすすめしない人
宅建士試験で学校の利用をおすすめする人・独学をおすすめしない人についてご紹介します。
基本的には、学校の利用をおすすめする人と独学をおすすめしない人は同じになります。
宅建士試験で学校の利用をおすすめする人・独学をおすすめしない人は、次のとおりです。
- 講師による授業を受けて効率的に勉強したい人
- わからないことについては質問によりできる限り早く解決したい人
- 受験のテクニックや試験によく出るところを知りたい人
- 気に入った市販の教材が見つからない人
- 最新の情報を入手したい人
- スケジュール管理が苦手な人
- モチベーションを保つのが苦手な人
- 早期で合格したい人
学校を利用する最大のメリットは講師による解説と質問できることです。
どちらも効率よく勉強を進める上で非常に重要です。
理解できる早さや深さも変わってきます。
最新の情報を入手できるため、法改正などがあっても安心です。
総合的に考えると、独学で勉強するよりも学校を利用した方が早く合格できる可能性が高まります。
気に入った教材がなければ独学はおすすめしません。
納得して購入した教材でないと、途中で嫌になってしまいます。
また、独学はスケジュール管理やモチベーションの維持などが難しく、自分に甘い人は挫折してしまうおそれがあります。
特に意志の弱い人は要注意です。
宅建士試験で独学をおすすめする人・学校の利用をおすすめしない人
宅建士試験で独学をおすすめする人・学校の利用をおすすめしない人についてご紹介します。
基本的には、独学をおすすめする人と学校の利用をおすすめしない人は同じになります。
- 費用をできる限り安く抑えたい人
- 計画的に勉強を進めることができる人
- 好きな教材を使って勉強したい人
- 自分のペースで勉強を行いたい人
- 好きな時から勉強を始めたい人
- 近くに学校がない人(通学講座)
- 通学に時間をかけたくない人(通学講座)
独学で勉強する最大のメリットはお金がかからないことです。
テキストや問題集を揃えても1万円以内で済みます。
予算が少なくても勉強して受験はできます。
自分のペースで勉強していけるのもよいです。
ただし、計画的に勉強を進めていかないと、受験日までに間に合わないという事態に陥ってしまいます。
自己管理をしっかり行い、最後までやり抜ける強い意志が必要です。
気に入ったテキストや問題集などで勉強したい人は学校を利用しない方がよいです。
学校の講座には目安となる受講期間が定められています。
そのため、受験日までの期間が短ければ、受講できなかったり、受講できたとしてもハードなスケジュールで勉強していかなければなりません。
無理なスケジュールで勉強しなければならない場合は、学校を利用しない方がよいかもしれません。
今年は独学で勉強して、もし不合格ならば来年は学校を利用するという考えで良いと思います。
近くに学校がなかったり、通学に時間をかけたくない場合は、独学以外にも通信講座の受講という選択肢もあります。